コロンビアの結婚制度とUnión Libreについて

今回は、コロンビアの結婚制度に焦点を当てたいと思います。
日本人同士が日本の地で結婚する場合は、通常、役所へ行って、婚姻届に必要事項を記入して…という「法律に基づく婚姻関係」が主流です。
しかし、コロンビアでは法律に基づく婚姻関係のほかにも様々なニーズに答える結婚の方式があります。その中でも法律で規定されたパートナー制度である「Unión Libre」があります。
結婚制度の中に、パートナー制度が組み込まれている理由は、コロンビアならではの事情があります。まずは、コロンビアの結婚制度から見ていきましょう!!
基本事項
「婚姻」に関しては、日本では憲法第24条に、コロンビアでは1991年コロンビア憲法第42条に規定されています。さらに日本は民法で細かい規定が、コロンビアでは、共和国民法第113条から婚姻についての細かい決め事がされています。
日本とコロンビアの婚姻について、下表で整理しました。
具体的に相違点が理解しやすいと思います。
日本 | コロンビア | |
---|---|---|
結婚できる年齢 | 男性:18歳 女性:16歳(※1) | 男女:18歳 (共和国民法第116条) (※2) |
氏名 | 夫婦同姓 | 夫婦別性 |
法律婚の成立要件 | 戸籍法に基づく届出 | 宗教婚 or 市民婚 or Unión Libre |
重婚 | 禁止 (重婚罪あり) | 禁止 罰則は形骸化 (刑法260条) |
再婚禁止期間 | あり | なし |
財産制度 | 別産制 | 基本的に別産制(※3) (民法180条) |
同居権、相互協力 | 民法に規定 | 共和国民法に規定 |
近親者間の婚姻 | 細かい親等の規定あり | 「家族」との婚姻を禁止(養子含む) |
その他変わった規定 | 再婚禁止100日規定 | 別の人と結婚するため現在の配偶者を殺害した人の結婚不可規定 |
※1 2022年4月より男女とも結婚できる年齢は18歳に統一される。
※2 14歳の未成年男女でも親の同意があれば結婚できる(共和国民法第117条)
※3 国際結婚や外国で結婚したコロンビア共和国居住者夫婦の場合、外国での財産は、夫婦の共有財産とはみなされない。(共和国民法第180条)
財産権や、同居権や協力関係などはほとんど同じですが、「氏名」・「法律婚の成立要件」は全く異なります。これにはコロンビアの文化的・宗教的背景が関わっていると考えられます。
次章では、「氏名」・「法律婚の成立要件」についてみていきたいと思います。
コロンビアの結婚制度について
日本とコロンビアの結婚制度で全く異なる点は、
「氏名」と「法律婚の成立要件」
まずはそれぞれについてみてみましょう!
氏名について
コロンビアに限った話ではなく、スペイン語圏の各国では、
「(第1の名前)(第2の名前)(父方の第1姓)(母方の第1姓)」
という名前を持つ方が一般的です。
(※第2の名前がない人や父方 or 母方の第1姓がない方もいます)
蛇足ですが、コロンビアの高齢者では、以下の構成の名前を持つ方もいます。
「(第1名前)(第2名前)(父方の第1姓) de (夫の第1姓)」
コロンビアの旧姓名制度下で結婚された女性に多いです。
コロンビアでは、結婚しても姓は変わりませんので、
「順子・ロドリゲス・ゴンサレス」
みたいになることは決してなく、日本名のままで今まで通りの生活ができます。
デメリットは…「結婚した感」はあまりないところでしょうか。
そもそも日本のように「戸籍」という概念がゼロのため、コロンビア人の知り合いに日本の結婚に伴う夫婦同姓について聞いてみると、「ありえない!」「いきなり名前変わってめんどくさくない?」「自分の家族を失うみたいでヤダね」という反応をされます。
コロンビアで正式に結婚しても、公証役場の市民登録簿に婚姻情報が付記されるだけです。結婚するときにも、コロンビアには戸籍の概念がないので、「戸籍謄本」の説明を公証役場でイチイチ説明する必要があります。
法律婚の成立要件について
日本では、婚姻届を役所に提出することにより法律的に婚姻関係となるのは皆さんご存じの通りだと思います。ただ、婚姻届を提出せずに「事実婚」という形態をとる方も多いようです。
日本で事実婚をすることのメリットは、
- どちらかの姓に改める必要がない
- 対等でクリアな関係を築ける
- 面倒な親戚づきあいや、お互いの家族関係が存在しない
- 手続きがシンプル
- 社会保険も関係機関の承認次第で、法律婚と同等の扱いになる
デメリットは以下です。
- 共同親権がない
- 配偶者控除・医療費控除等が適用されない
- 相続権がない。相続できても、相続税控除の対象外
- 日常で配偶者を証明するのが面倒
世界的にも事実婚の割合は増えてきているのにも関わらず、日本では租税や法律関係は圧倒的に不利となる事実婚。つまり日本では、婚姻届を提出して法律に基づく婚姻を前提とした制度設計になっていることがわかりますね。
一方、コロンビアでは、婚姻届というものがありません。そして法律婚を前提とした制度設計以外の選択肢が用意されています。まずはコロンビアの法律婚から、説明していきます。
例外はありますが、共和国民法上、
「法律に基づく婚姻は、裁判官あるいは公証役場の公証人の面前、あるいは政府が認めた宗教的施設で行われなければならない」と定められています。
コロンビアの法律婚には主に2つの種類があります。
- 政府の認可した宗教団体の教義に基づいて行われる宗教婚
- 共和国民法の規定に基づき官吏の前で行われる市民婚
コロンビアでは、政府が認可した宗教団体による宗教婚は法的な拘束力を持つものと民法上に規定されています。市民婚は、公証役場や家庭裁判所の公証人・裁判官の面前で、共和国民法の文言に同意すると成立します。
コロンビアで法律婚をする場合は、上記に基づく結婚式を行なうことで、婚姻が成立します。両人の合意と証人さえいれば、あっという間に結婚できてしまいますが、法律婚をしたカップルが「離婚する」という選択肢は一般的にありえない事態です。
これには文化・宗教的な背景が関わっているとされています。
まず、コロンビアは85%以上の人がカトリック教徒とされており、信仰心の深い方が多いです。カトリックでは、婚姻は秘跡(サクラメント)の一つで、男女が生涯にわたり愛と忠実を神前で誓うことにより、教会法上の婚姻関係が成立します。その婚姻関係は、教義上解消できない=離婚が原則認められておりません。
私はカトリック教会で結婚式をした経験があります。
司祭は結婚式の最中に、
“Así que no son ya más dos, sino una sola carne; por tanto, lo que Dios juntó, no lo separe el hombre.”
(したがって、あなた方はもう2人ではなく、1つの肉なのです。神が2つにしたものを、人間は離れさせられない)
と絶対言います。当然、民法上離婚することは可能ですが、教会や信仰では許されていない。カトリック信者にとって、法律婚=宗教婚であり、想像以上に覚悟のいることなのです。
↓↓ コロンビアで国際結婚した時の記事はこちら!
そのためコロンビアでは、法律婚・宗教婚ではない別の制度が法律によって設けられています。
その制度は「Unión Libre」と呼ばれるものです。
Unión Libreについて
Unión Libre は、昔からコロンビアに存在している制度で、正式名は 、「“Las uniones maritales de hecho”(事実上の夫婦連合)」といい、根拠法は、「1990年法律57号 」及び「2005年法律979号」です。
Unión Libreは、夫婦間の婚姻関係はないまま「パートナー」として法律婚とほぼ同等の権利、社会・経済的便益を享受することができる制度です。財産についても基本的に夫婦の共同財産として、相続時はパートナーが優先されます。子供の共同親権も持つことができます。
日本の「事実婚」とは違い、法律でしっかり定義された「共同パートナー宣言」と言えるでしょう。法律婚との違いは、
- 特定宗教に基づく神前の誓いではない
- 気軽にUnión Libreの状態になることができる
- 同性でもパートナーとしての諸権利を得ることができる
日常生活上、とにかくメリットしかないです。
同性でも法律上パートナーとして認識され、法律婚と変わらない権利があるのは、とても良い制度だと思います。
Unión Libre 手続きについて
Unión Libreをコロンビアで宣言する場合、下記が必要条件となります。
(※正確には「Sociedad Patrimonial」を宣言することも含まれます)
2年間継続してパートナーであること
これだけです。
ざっくり、コロンビアの法律および最高裁判所の見解としては、
「2年間パートナーとしているなら、家族となりうるし、共同資産もできているだろう。」
というものです。
【出典:コロンビア最高裁 :Sentencia C-158/07 de 7 de marzo de 2007 及び Sentencia C-257-15 de 6 de mayo de 2015 】
必要書類と手続きは以下の通りです。
- Cédula de ciudadania / Cédula de extranjería / パスポート
- パートナーとして付き合い始めた時期の証明
- パートナーとして現在まで付き合いを続けていることの証明
- 公証役場への申立書
- パートナーとの間に生まれた子供の出生証明書(子供がいたら)
これらの書類や証拠を、調停センター・公証役場・家庭裁判所のどれかに提出し、申し立てを行います。通常は公証役場が良いです。調停センターや家庭裁判所は最終手段で行きます。
ちなみにコロンビア人でも、外国人でも手続きの方法は変わりません。
公証役場でUnión Libreの申し立てを行うと、公証人か役場の弁護士が事実確認の調査を行います。実際の確認はその場で行われることが多いです。
初めて会った時の写真、海外旅行した時の自撮り動画、WhatsAppでの会話履歴、共同で買った家具のレシート、関係するクレジットカードの使用履歴、現在一緒にコロンビアで住んでいる家の公共料金の請求書、家族の証言など、ありったけの証拠を用意しましょう。
※コロンビアの家族法弁護士に尋ねましたが、「日本での離婚歴などは、コロンビア政府および関連機関で確認不可能なものであるし、民法・関連通達・判例上は不利になったり条件が変わるなどは一切ありません。」という回答でした。
もし、2年以上パートナーでないが、Unión Libreの申請をしたい場合や、公証役場からUnión Libreの宣言ができない=否認されたときは、コロンビアの民法(家族法)専門の弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士が家庭裁判所や憲法裁判所に訴えを起こすことによって、2年未満のカップルでもUnión Libreが認められることがあります。
2年未満のカップルで、離れて住んでいる場合は、「Cámara de Comercio(=商工会議所)」でも在籍弁護士が「Unión Libreの宣言書」作成支援をしてくれます。
持参物は下記で十分です。
- コロンビア人のCédula de ciudadania
- 外国人のパスポート
- ある程度のお金 (300,000ペソほど)
詳しくは商工会議所に問い合わせたほうが良いです。
実際、「同居期間半年のみのオーストラリア×コロンビアのカップル」でUnión Libreが認められたケースを支援したことがあります。
日本人でも、出会って1年くらいだったが、認められたケースも聞いています。2年間という期間が満たせていない!と諦めることはないです。
こちらのサイトからコロンビアの弁護士に相談することもできます。
https://www.abogados.com.co/
Unión Libreの申し立てが許可されると、証明書が発行されます。
外国人でコロンビアの滞在ビザを持っていない場合には、Unión Libreの証明書をもとに、コロンビア移民局に配偶者ビザを申請します。
移民局に問い合わせた結果、「配偶者ビザはUnión Libreの証明書もOK」と確認しております。(2020/7月現在)
↓↓ 配偶者ビザの申請方法はこちらから!
↓↓ 配偶者ビザのオンラインフォーム申請方法はこちら!
↓↓ Cédula de Extranjeríaの申請方法はこちら!
コロンビアの結婚制度とUnion Libreについてみてきたわけですが、
Union Libreの制度は、今の多様な結婚観やパートナーとの付き合い方に合っているもので、だんだんと日本でも法律で規定しないといけないのかな?と思います。
ともかく、どんな形態のつながりでもパートナー同士で一番大事なのは「尊敬と信頼」なのかな、と感じています。私も記事を書きながら、奥さんとの付き合い方をもう一度再確認できた良い機会でした。
この記事が、コロンビアに住みたいと思っている方に届くことを願っております!
「Union Libre」の解消方法も別記事でお伝えします!
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